マスク着用が難しい自閉症のある人と、その支援者ができること

マスク着用が難しい自閉症のある人と、その支援者ができること

新型コロナウイルス感染拡大防止対策として、各所でマスクの着用が強く推奨されています。今や全国的に、「公共の場ではマスク着用」という認識が定着しました。

 

しかし一方で、何らかの理由によってマスクをつけることが困難である人びとも存在します。

 

本記事では自閉症(自閉症スペクトラム)のある人びとのマスク着用について解説したうえで、マスクの着用がむずかしい当事者とその支援者が、周りの人びとと安心してともに生活するためのヒントをお伝えします。

自閉症のある人たちの、マスク着用のむずかしさ

自閉症のある人たちにとってマスク着用がむずかしい理由のひとつとして、「感覚過敏」が挙げられます。感覚過敏とは、触覚や嗅覚、味覚など、一部の感覚がとても敏感である特性のことです。

感覚過敏は自閉症のある人たちによく見られる特性のひとつでもあり、特に触覚(肌に触れる感覚)が敏感な人がマスクをする場合、顔の半分以上に常に布が触れていることで、強い不快感や不安感を覚えることがあります。それゆえ、マスクの着用がむずかしいことがあるのです。

また、自閉症のある人のうち3割から4割は、知的障害を併せ持つと考えられています。知的障害と自閉症のある人の場合、マスク着用の目的を理解することができないために、着用がむずかしいこともあるのです。

マスク着用をめぐる誤解

マスクの着用がむずかしいという自閉症のある人が、COVID-19下において当事者ではない人びとと安心してともに生活することは、時として困難なこともあります。

なぜなら、先述したような理由からマスクができないにもかかわらず、「マスクをしていない=感染対策をしていない」と捉える人から、強い非難を浴びせられることがあるからです。「マスクをしていないことで暴言を吐かれた」「公共の場で肩身の狭い思いをした」といった経験のある当事者や支援者は、少なくありません。

これは、マスク着用の目的が多くの人びとのあいだで正しく理解されていないことが原因のひとつです。マスクの目的は、自分の飛沫を防ぐことです。そのため、たとえマスクを着用していなかったとしても、他人の飛沫が届かない距離を保てる場や、会話を要さない場であれば、マスクをしていなくとも感染リスクは低いといえます。

しかし、マスク着用をめぐる正しい認識が社会において十分に共有されているとは言い難いのが現状です。

当事者と当事者ではない人びとが、ともに生活するために

ではそうした状況のなかで、自閉症のある人びととその支援者ができることには何があるのでしょうか? ここでは、マスク着用の困難に際して実践できる3つのヒントを紹介します。

.環境の調整

マスクを着用していないことが問題視されるのは、主に公共の空間です。しかし、人が生活において公共の場に一切関わらないことは不可能であり、過度に人のいる場を避けようとすると、当事者にも支援者にも負担がかかることとなります。

公共の場に足を運ぶ際は、支援者による環境の調整が効果的です。たとえば、マスクをせずに公共交通機関を使う場合は、他人に飛沫が飛ばないよう、最前列に座席を確保する肌に触れる面積の少ないフェイスシールドを使うなどの工夫が挙げられます。こうした工夫をすることで、少しでも公共の場での負担を減らすことができるかもしれません。

感覚過敏のある人も、肌にあたる材質や、耳の部分の微妙なあたりの違いなどによっては短時間の装着ができるマスクが見つかるかもしれません。感覚過敏に関する記事でもオリジナルマスクを紹介しているので、参考にしてみるのもよいでしょう。

フェイスシールドは、飛沫から自分を保護するためのもので、周囲に飛沫を飛ばさないようにするためにはマスクの着用が推奨されています。そのため、マスクの着用が難しい方がフェイスシールドを使用する際は、可能な限り周囲と距離を取ったり、最前列に席を確保したりといった対策と合わせて実施することが望ましいでしょう。フェイスシールドに関する記事もご参考にしてください。

2.マスク着用に向けたトレーニング

知的障害が理由でマスク着用が困難な場合でも、「なぜマスクをするのか」ではなく「いつマスクをするのか」を理解することで、特定の場面でマスクを着用できるようになることがあります。

たとえば、「バスに乗る時はマスクをします。バスを降りたらマスクを外します」のように、「どこで、いつからいつまで」と場面と期限を限定しトレーニングを重ねることで、特定の公共の場でも少しずつマスクを着用できるようになるかもしれません。

また、当事者と支援者で「どれくらいならマスクの着用を我慢できるか」について話し合っておくことも大切です。「ここまでなら我慢できるライン」を互いが共有しておくと、たとえば、交通機関での移動時間が長い場合の対策などを前もって考えやすくなります。

3.非難を浴びた際の対応

当事者や支援者がいくら工夫をしたとしても、時には、事情を知らない第三者から非難を浴びせられることもあるかもしれません。そのような場合は、支援者が適切な「切り返し」を持っておくと、トラブルの拡大を防ぎやすくなります。

たとえば、マスクができない自閉症のある子どもに対して「子どもにマスクをつけさせろ」という非難を受けた場合、「この子には自閉症があります。マスク着用は少しずつトレーニングをしているところです」など、事実を伝えるように意識するとよいでしょう。状況の理解を求めようとするよりも、相手がそれ以上の非難を重ねづらいように端的にまとめるのがポイントです。

おわりに

COVID-19下において、自閉症のある人とその支援者は、生活に困難を感じる場面が増えているかもしれません。しかしその困難は、決して当事者だけに起因するものではありません。当事者ではない人びとと、当事者のあいだにある溝が、多くの人にとって見えづらいものであることが大きな原因であると考えられます。

自閉症のある人とない人がともに生活するために大切なのは、両者にとってもっとも良いかたちを、その都度、一緒に模索していくことです。穏やかな暮らしは、ほんの少し視点を変えたり、ほんの少し工夫をするだけで実現できることがあります。焦らずに少しずつ、よりよい暮らしのかたちを探してみてください。

  • 参考

厚生労働省「マスク等の着用が困難な状態にある発達障害のある方等への理解について

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