視覚障害のある人が「新しい生活様式」で暮らす上で、周囲の人に知っておいてほしいこと

視覚障害のある人が「新しい生活様式」で暮らす上で、周囲の人に知っておいてほしいこと

「マスクを着用し外出する」「建物への出入りの際はアルコール消毒を」など、新型コロナウイルス感染を防ぐための「新しい生活様式」が推奨されています。
以前とは違う暮らし方に、とまどいを覚えるという人も少なくないと思います。

その中で、視覚障害のある人からも「新しい生活様式」とこれまでの生活とのギャップに困りごとを感じるという声が聞かれました。

この記事では、視覚障害のある人がどのような困難さを感じているのか、そして周りの人々と共にどのように解決していけばいいのか、具体的に考えてみたいと思います。

「視覚障害」の状態について

視覚障害には大きく2つの状態があります。
ひとつめは「全盲」という、ほとんど光を感じない状態。
もうひとつは「弱視」という、視力低下や視野欠損、眩しさや暗闇などで、見えにくさを感じたり、視野の中で一部分しか見えない状態です。

「白杖(はくじょう)」という白い杖を持って歩いている人は、周囲の人からも「視覚に障害がある」と判断しやすいです。
しかし、白杖を持っていないけれども視覚障害のある人もおり、どのような困りごとがあるかは人それぞれです。

以下では、場面別に具体例を出して説明します。

ソーシャルディスタンスによる不安・困りごとについて

公共交通機関の利用において

現在、電車やバスなどの交通機関では、なるべく距離を空けて「ソーシャルディスタンス」を保ち、手すりなどに触れないようにしながら利用している人が多いのではないでしょうか。

しかし、視覚障害のある人は周囲に人がいるか見えにくく、人との距離が近くなってしまう場合もあります。また、手すりやつり革を確かめながらの乗り降りが必要なこともあります。

距離感をつかめず困っている人を見かけたら、「今隣に人(自分)がいます」と声をかけてお知らせしたり、「こちらは人が少ないですよ」と十分に空いている空間に誘導しましょう。

また、「触れることで距離や空間を把握している人たちがいる」ということも理解し、見守ってもらえればと思います。

小売店のレジ利用において

小売店のレジ前では、並ぶ際にソーシャルディスタンスを取れるよう、床に足型が記されています。

ですが、視覚障害のある方の中には、その足型自体が見えない方もいます。
たとえば、黄色・ベージュなど明るい色の床にオレンジや黄色などの足型シールでは、コントラストが低く、弱視の人には見えにくいのです。
また、全盲の人には、足型シールそのものを確認することも困難です。

足型が分からず困っている人を見かけたら、場所を譲ったり、「こちらに並ぶようですよ」と声をかけてみて下さい。

また、店員との接触を減らすため「代金やお釣りの受け渡しはトレイで」という店舗が増えています。
遠近感をつかむのが苦手な人は、トレイにお金が置けているか、おつりが全て受け取れたかがわかりにくい状況にもなりやすいです。
もしそのような人を見かけたら、「大丈夫ですよ」「10円玉が残っていますよ」などと声かけをしてみてください。状況がわかって安心しやすくなるでしょう。

飲食店の利用において

現在飲食店では、ソーシャルディスタンスを保ちながら人が座れるように、空白の席を設けている店舗が多くなっています。

これまで視覚障害のある人は、メニューが読めない場合、隣の席の人にそっと内容を確認することがありました。
ですが、周りに空席や距離があると、どこに人がいるかわかりません。
そのため大きな声をかけなければ、店員や他の客に気がついてもらえない状況になっています。

もしそのような人がお近くにいたら、何に困っているのかを聞いて、店員さんにつなげるなどのサポートを行なってみてください。

必要な情報が得られにくいという困りごとについて

グラフや写真からの情報取得の場面

ニュースやWebサイトを見ると、数多くの情報が日々刻々とアップデートされていきます。中には、わかりやすく可視化されたグラフや、ソーシャル・ディスタンスをとっている写真、感染防止の工夫の写真などが発信されています。

しかし、視覚障害のある人には、グラフなどの情報を読み取ることに困難を覚える人も多いです。
音声読み上げ機能を使うことでインターネットニュースの記事を読むことはできますが、グラフや写真にはキャプションや解説などがついていないこともあり、せっかくのわかりやすい情報を得られません。

もしあなたが視覚障害のある人と一緒にいるのであれば、必要に応じて、メディアで発信されているグラフや写真・画像などに何が記されているのかを教えてあげてください。その情報が今後、その人の役に立つかもしれません。

他者との会話の場面

現在、多くの人がマスクをして会話を行なっています。しかし、マスク越しの会話では声がこもってしまって、発言が聞き取りづらくなってしまいます。
これまでは相手の顔や表情を認識できていたという弱視の人でも、顔の半分以上がマスクで覆われてしまうことで、表情を読み取ることが難しくなってしまった……という声もあります。

視覚障害のある人にマスク越しに話しかけるときは、「私は◯◯です」と名前を伝えてから会話を始め、いつもより少し大きめの声で、ゆっくりと発言することを心がけましょう。

もし対面の必要がなければ、オンラインでの会話がおすすめです。お互いが「誰と話すのか」理解できている状態となることで、より安心したコミュニケーションの場を作れます。

書類手続きの読み書きの難しさ・困りごとについて

各自治体・役所から発信されている福祉情報の手続きは、目的によって部署も違ったり、細かい書類や資料が何枚もあったりと、複雑なものが多くあります。

その中でも、紙の申請資料や申請要項などを読み取ることが特に困難な人もいます。
もし、手続きに困っている人がいたら声をかけてみてください。逆に、困っている本人から助けを求めて声をかけられる場合もあるかもしれませんので、その際はぜひ対応してもらえると嬉しいです。

役所によっては、窓口の職員から要項のお伝えや、代筆の対応が可能な場合もあるので、周囲の職員にも確認してみましょう。

また、オンラインで提出できる申請書では、音声入力で対応できるものも増えています。知らずに困っている人がいたら、伝えてみてください。

新型コロナウイルスに感染した場合の困難さ・困りごとについて

視覚障害のある人が新型コロナウイルスに罹患し入院が必要な場合、大変なのは感染リスクを抑えながらの手続きや準備です。

たとえば、入院の際に必要な物資の準備、入院の際の交通手段の手配、入院の書類手続きなど、人との接触を抑えながらひとりで対応することが困難な場合もあります。

感染予防を行なった上で「何か必要なことはありますか?」と本人に訊ね、買い出しや書類対応など、必要なサポートをしてください。

視覚障害のある人が新しい生活様式での暮らしを営むには、現段階ではいくつもの問題が生じます。

しかしながら、在宅勤務が推奨されたことで移動のストレスが軽減されるなど、コロナ禍によってポジティブな変化が現れた部分もあります。

今後の工夫で、「新しい生活様式」が誰にとっても過ごしやすいものになる可能性もあるでしょう。
大切なのは、社会には多種多様な状況下の人々がいると知り、理解すること。この記事が、周りの人に目を向け、助け合うためのきっかけのひとつになれば幸いです。

関連記事